それを離れた場所で見ていたディルも、倒れた黒竜(シャドウ)を呆然と見据えながら立ち尽くしていた。

「君はいったい、どこまで強くなるっていうんだ……」

 ライバルの前で格好のいい姿を見せることができた。
 黒竜(シャドウ)を討伐できたことより、そちらの喜びの方が私としては大きいように感じた。
 しかしその時――

「グ……オオォォォ!!!」

「――っ!?」

 倒したと思っていた黒竜(シャドウ)が、突然咆哮しながら体を起こした。
 予期せぬ事態に、私とディルは揃って目を見開く。
 唖然とする中、黒竜(シャドウ)は傷付いた翼を強引に動かしながら、空高くへと飛翔した。
 そして私たちに背を向ける。

「まさか、逃げるつもり……!」

 黒竜(シャドウ)は私の一撃で深傷を負った。
 命の危険を感じて、ここから逃げ去ろうとしても不思議じゃない。
 まさかあの怪我で、まだ飛べる余力を残しているとは思わなかった。
 絶対に逃すわけにはいかない。

「魔法で撃ち落とす!」

 私は即座に右手を構える。
 離れていく黒竜(シャドウ)の背中に手の平を向けて、集中力を研ぎ澄ました。
 ここで奴を逃がすと、また別の領地や人々が襲われることになる。
 その被害は数百人程度の規模では収まらないだろう。
 いわばこの一撃には、数千人の命が掛かっている。
 失敗が許されない状況に、私は息を飲みながら右手に魔素を集中させた。