開幕から謝罪を受けることになるとは思わず、私はぽかんと口を開ける。
 そもそもディルから謝られるなんて初めての体験だ。
 魔法学校では常に競い合うライバル関係で、ほとんど憎まれ口しか叩き合ったことがなかったのに。
 まあ、昔はよくこっちに突っかかってきた悪ガキの印象が強いけど、この年頃になって大人らしい落ち着きが出てきたからね。
 不思議と感慨深い気持ちになっていると、ディルが続けて申し訳なさそうに言った。

「ローズマリーが嫌だったら、もちろん断ってくれてもいいよ。あくまであれは、僕が勝手に言ったことだから」

「い、いやいや、私としては願ってもない話だよ。王家との繋がりが作れて実家を助けられるんだから」

 マーシュ様に婚約を取り消された時は本当にもうダメかと思ったけど、そこをディルに助けてもらえるなんてまるで予想していなかった。
 ライバルのディルと婚約するということに、さすがに違和感を禁じ得ないけど、私としてはとてもありがたい話だ。

「でも本当にいいの? 私なんかが結婚相手になっちゃっても。色々と問題がありそうな気が……」

「それは第二王子の立場として、もっと慎重に相手を選んだ方がいいんじゃないかってこと?」

「まあそれもあるけど、この結婚にディル側のメリットがあんまりないような気がしてさ」

 改めてそう尋ねると、ディルは不意にため息を漏らして、呆れたように返してきた。

「さっきも言っただろ。僕は君の力を買っているって。だから婚約して実家を助ける見返りとして、君には領地開拓を手伝ってもらうんだ。僕にとってはそれが何よりのメリットだよ」

「……そ、そう」