「貫けない……!」

 宿した雷の性質も効果がなかったようで、黒竜(シャドウ)はこちらに見向きもせず森を荒らし続けている。
 奴の暴走を止められない。
 どんな魔法も黒竜(シャドウ)には通用しない。
 かつて数多の凄腕魔術師たちがその身を犠牲にして、封印するしかなかった伝説の飛竜。
 今の私の魔法の力じゃ、そんな怪物を止めることはできないんだ。
 森を焼かれていく光景を、ただ呆然と眺めることしかできなくて、私は人知れず唇を噛み締めた。

「【予報外れの大霰(ヘイル・ストーン)】」

 その時、傍らのディルが魔法を発動させて、水色の魔法陣から巨大な氷塊を放つ。
 複数の氷塊は黒竜(シャドウ)の体に衝突するが、傷を付けられずに虚しく砕け散っていった。
 それでもディルは、続け様に魔法を放とうとしている。
 ディルはまだ、まったく諦めていない。
 この領地を守るために、仲間の開拓兵たちを傷付けさせないために、黒竜(シャドウ)の暴走を止めようとしている。

「…………ダメだ」

 弱気になっちゃ、ダメだ。
 私も、みんなで開拓を進めてきたこの場所を守りたい。
 あの男の悪意のせいで、すべてを踏みにじられるわけにはいかない。
 大好きな魔法の分野で、諦めるなんてことは絶対にしちゃいけない。
 私の大好きは、どんな苦境も困難も解決できる可能性を秘めている。
 何より……

 ライバルのディルに、失望なんてされたくないから。