よかった。思っているよりもひどい状況にはなっていないようだ。
 死者は無しで、本格的に開拓を進めていた中央部までは飛竜の手が届いていない。
 つまり……

「ここであの竜を止めれば、最小限の被害で事態を収めることができる」

 私が思ったことを代弁するように、ディルが飛竜を見据えながら呟いた。
 次いで彼は、すかさずこちらを振り向く。

「行こう、ローズマリー!」

「うん!」

 彼の声に頷きを返すと、私たちは同じタイミングで飛竜の方へ駆け出した。
 そしてディルは開拓兵たちに指示を残す。

「開拓兵は戦いに巻き込まれないように、できる限り遠くへ離れてくれ!」

「承知いたしました!」

「ディル様、ローズマリー様、どうかご武運を!」

 開拓兵たちは力になれないことが悔しいのか、申し訳なさそうな顔で応えていた。
 しかしそれも無理はない。
 今、私たちの目の前にいるのは、このソイル王国を恐怖に陥れた過去最恐の魔物だ。
 遠目に暴れ回っている姿を見るだけでも、生物的な本能が“逃げろ”と訴えかけてくる。
 それでも私とディルは飛竜を目掛けて全力で走り、冷静に敵の姿を見据えた。