次第に地響きが大きくなる中、森林地帯の奥地を目指して私たちは走り続ける。
 やがて木々が倒れていたり、茂みが焼け払われている荒地を見つけると、そこに向かって足を動かした。
 そして辿り着いたその先に、私たちは確かに見つける。
 木々を薙ぎ倒し、緑を息吹で焼き払っている、影のように黒い巨大な竜の姿を。

「あれが、黒竜(シャドウ)……」

 突風を巻き起こすほど大きな両翼に、刃のように鋭い爪と牙。
 光沢のある黒い鱗は非常に頑丈そうで、蛇のように縦長の瞳孔をした赤目はかなり恐ろしい。
 何よりも凶悪なのはその体の大きさで、縦の寸法だけで言えば私たちが暮らしている屋敷とほとんど同じ大きさをしていた。
 かつてソイル王国を窮地に追い込んだ、災厄とも呼ばれた伝説の飛竜。
 遠目からでもその恐ろしさが伝わってきて、ディルと一緒に立ち尽くしていると、不意に後ろから声をかけられた。

「ディル様! ローズマリー様!」

「来ていただけたのですね!」 

「森林開拓班か……」

 この森林地帯で任務中だった開拓兵たちだった。
 見たところみんな怪我をしているようで、飛竜の息吹を少し受けたのか、火傷を負っている人たちもいる。

「遅くなってしまってすまない。状況を簡潔に頼む」

「負傷者は複数名おりますが、死者は出ておりません。そして森林地帯の被害ですが、現状はこの奥地の周辺のみが荒らされているだけで、土壌整備を行っていた中央部までは被害が広がっておりません」