こいつのせいだ。
 こいつが、黒竜(シャドウ)の封印を解いたんだ。
 私とディルに恨みを持っているから、開拓を進めているピートモス領をめちゃくちゃにするために黒竜(シャドウ)を解放した。
 ディルもその事実に気付き、マーシュに怒りの視線を向ける。

「落ちるところまで落ちたな、マーシュ・ウィザー……!」

「ハハッ! そうだ、その顔だ……! その顔が見たかったんだ、ディル・マリナード!」

 マーシュの下品な笑い声が、森の中に木霊する。
 その声に憤りを覚えたように、ディルの拳に次第に力が込められていった。
 対して私は、彼の後ろで静かに俯く。

「ローズマリー、貴様の絶望した顔も見せてみろ! すべて貴様が原因だ! 貴様のせいでこの領地は、完全に滅ぶことになるんだよ!」

 マーシュの悪意に満ちた視線を感じる。
 私に責任を感じさせたいのだろう。あからさまに自責を煽るような口ぶりである。
 とはわかっているものの、私の胸には否応なく責任感と後悔が湧いてきてしまった。
 私がこの事態を招いてしまった。
 私がマーシュの怒りを買ってしまったから、ここまで絶望的な状況に追い込まれてしまったんだ。

 私のせいで、大切な領地が、開拓兵のみんなが……

「…………ふざけるな」

 私は絶望ではなく、怒りに満ちた顔を上げた。
 マーシュはその視線を受けて、驚愕したように目を見開く。
 これは私のせいなんかじゃない。すべてはこの男が原因だ。