その人物がマーシュ・ウィザーであると認識すると、ディルはすかさず私の前に立ってくれた。
 そして私は彼の背中越しに、驚愕の眼差しでマーシュを見据える。
 様相はかなり変わっているけど、目の前のボロボロになっている人物はマーシュで間違いない。
 奴はこちらに目を向けて、微かに笑っているように見える。
 その目が血走っていることに不気味さを覚えていると、私も疑問に思っていたことをディルが口にした。

「なぜお前がここにいる。僕の領地で何をしているんだ」

 その問いかけに、マーシュは確かな笑い声を返してくる。

「ハ、ハハッ……! 貴様らが、貴様らが悪いんだ……!」

「……なに?」

「貴様らだけ成功を収め……民衆から声援をもらい……いい気になりやがって……! 貴様らも破滅の道へと落ちるがいい」

 マーシュの声は掠れていて、憎悪に満ちた声音と物騒な発言から一層の気味悪さを感じる。
 いったいどういう意味の台詞だろうと首を傾げかけるが、私はハッと最悪の予感を脳裏によぎらせた。

「もしかして、黒竜(シャドウ)の封印を解いたのは……」

 ピートモス領の奥地に封印された伝説の飛竜。
 その封印がなぜか解かれてしまい、飛竜は現在ピートモス領の森林地帯で暴れ回っている。
 王国の魔術師たちが死力を尽くして施した封印は、そう簡単に解けるものではないはずだが、それを誰かが意図的に解こうとすれば話は変わってくる。
 そして今、見計らったようなタイミングで現れた、私たちに強い恨みを持っているマーシュ・ウィザー。
 背筋を凍えさせる私に、マーシュは悪意に満ちた笑みを浮かべた。

「盛大に共倒れようではないか、ローズマリー」

「――っ!」