そんなことを考えていたんだ。
 じゃあもし私がマーシュに婚約破棄されていなかったとしても、ディルは開拓作戦に私を誘っていたかもしれないってことか。
 そう思うと、やはりあの時マーシュに婚約破棄されたのは僥倖だったと言える。
 ディルとしては、侯爵夫人になった私には手伝いを頼みにくかったと思うし、私も魔術師として活動することを制限されていただろうから開拓作戦には参加できていなかったと思うから。

「ピートモス領の奥地には貴重な資源が大量に眠っている。安定した資源調達の道を作れたら、ソイル王国は著しい前進を果たすことができる。黒竜(シャドウ)討伐は言ってしまえば、この国そのものの悲願でもあるんだ」

 ディルは複雑な心境を示すように、眉を寄せて続ける。

「そしてこうして君の協力を得られて、あとは開拓兵の補充と成長を待つのみとなった。けどまさか、こんな形で封印が解かれるなんて微塵も思わなかったよ。いったいどうしてこんなことに……」

 瞬間、その疑問に答えるかのように、道先に見える茂みが不自然に揺れた。
 驚いた私たちは咄嗟に足を止めて、その茂みを注視する。
 魔物か小動物か、はたまたまったく別のものか。
 魔物であれば早々に討伐して先を急ごうと思っていたのだけれど……

 そこから現れたのは、思いもよらぬ人物だった。

「えっ……」

 ズタボロの衣服に傷だらけの全身。
 痩せこけた頬は若干骨ばっており、髪はボサッと無造作に伸ばされている。
 まともとは言えない姿をしている人物ではあったが、私たちはその人に深い見覚えがあった。
 特徴的な青髪と翠玉色の瞳を持つ長身の男性……

「マーシュ・ウィザー!?」