「今のはもしかして……」

「おそらく黒竜(シャドウ)が暴れているんだろうね。ここまでその余波が届いているんだ」

 姿は木々によってまだ見えないが、地響きの具合からしてそう遠くない場所にいるのはわかる。
 私とディルは一層足取りを早めた。
 気持ちに僅かな焦りが生まれる中、ディルが不意に横から話しかけてくる。

黒竜(シャドウ)は、ローズマリーをこの開拓作戦に誘おうと思った一番のきっかけでもあるんだ」

「えっ? そうだったの?」

「僕がこのピートモス領の開拓を任されると聞いた時から、黒竜(シャドウ)は悩みの種だった。領地開拓を任せてくれた父様も、黒竜(シャドウ)に関しては触れなくてもいいと言ってくれたんだ」

 ディルは少し申し訳なさそうな顔で続ける。

「初めは僕もそのつもりだった。黒竜(シャドウ)は何を拍子にして目覚めるかわからないから、下手に刺激しないように奥地の開拓は最初から諦めていたんだ」

 次いで彼は、私に緋色を目を向けて、微かな笑みを浮かべた。

「でも、君に出会って考えが変わった」

「わたし?」

「ローズマリーは、過去に例を見ないほどの魔法の実力者で、僕は一度として勝つことができなかった。そんな君がもし協力してくれるなら、実現不可能と思われた黒竜(シャドウ)討伐も叶えることができるんじゃないかと思ったんだ」