その知らせに、私とディルは思わず立ち上がる。
 封印されていた飛竜と言えば、このソイル王国でも最恐の災厄と言われた伝説の魔物だ。
 ピートモス領の開拓において最大の悩みの種になると、前々からディルが頭を抱えていた存在であるが……

「先ほど、森林地帯の開拓のために、土壌整備や魔物討伐を行っている班から伝達がありました。前触れもなく地底湖から飛竜が現れたと」

「いったいどうして……?」

 ディルが驚愕する中、私は念のために確認の問いかけをした。

「飛竜って確か、『黒竜(シャドウ)』って呼ばれてる伝説の魔物だよね? 昔の魔術師たちが犠牲になりながら、なんとか封印して深い眠りについてるはずじゃ……」

「あぁ、だから誰かが意図的に刺激しなければ、黒竜(シャドウ)は目を覚ますはずがないんだ。奥地の開拓のために、いつかは黒竜(シャドウ)を討伐しなければならなかったんだけど、それは戦力が整ってからにしようと思っていたのに」

 ディルは顔をしかめて頭を抱える。
 彼の見立てではまだ黒竜(シャドウ)討伐への戦力が足りていないようだ。
 そんな中でくだんの魔物が目を覚ましてしまった。
 黒竜(シャドウ)との戦いは、おそらく避けて通れない。

黒竜(シャドウ)は激しい飢餓状態のせいか、森を荒らしながら徐々にこのアースの町へ迫っているとのことです」

 ディルは腕を組みながら悩ましい表情を見せる。
 唐突なトラブルを受けて判断に迷っているようだが、僅かな逡巡の後、開拓兵に冷静に返した。

「森林開拓班には、安全な場所に避難するように伝えてくれ。間違っても下手に黒竜(シャドウ)を刺激しないようにともね」

「はい、承知しました」