マーシュの胸の内に、ドス黒い感情と非人道的な思考が生まれた。
 奴らだけが成功している現状が許せない。
 それならばこちらと同じように地獄に叩き落としてやるまで。
 そのためには……

(ピートモス領か……。確かあの場所には……)

 マーシュは憤りの中で、ある一つのことを思い出す。
 ピートモス領は開拓の余地を存分に残した価値ある土地だ。
 しかし厄介な魔物が多く生息しており、長年開拓に難儀している場所でもある。
 中には災厄級の魔物も存在していて、此度の祝賀会はその一種を討伐した祝いの場だと聞いた。
 ただ災厄級の魔物は、今回討伐された大蛇の魔物だけではなく、別の種がまだピートモス領に存在している。

(伝説の飛竜――『黒竜(シャドウ)』。話によれば、ピートモス領の奥地に封印されていると聞く)

 八十年ほど前に突如として現れ、ソイル王国を襲った凶悪な魔物。
 多大な魔術師が餌食になり、王国史上最大の被害をもたらしたとして災厄級の魔物に数えられた。
 そのあまりの強さから、討伐が困難ゆえに、人里離れた辺境の地に封印することしかできなかったと言われている。
 その辺境の地こそが、現在ディルとローズマリーが開拓を進めているピートモス領。
 マーシュはその話を思い出して、静かに下卑た笑みを浮かべた。

「俺の怒りを買ったこと、必ず後悔させてやるぞ……!」

 極限まで追い込まれたマーシュ・ウィザーは、人知れずそう呟くと、裏路地の闇にその姿を消したのだった。