鎮まりかけていた怒りが再び沸き上がってくる。
 ローズマリーから、マーシュの悪行についてはすでに聞いてある。
 その時も、心穏やかに話を聞くことなんてまるでできなかった。
 これだけの憤りを感じたのは生まれて初めてのことだ。
 最愛の人物が毒牙にかけられそうになると、人はここまで感情が膨れ上がるものなのか。

(相手があのマーシュ・ウィザーだからというのもあるのかもしれないけど)

 ディルは前々からマーシュに対して個人的な恨みを持っている。
 というのも複雑な恨みではなく、内容は至極単純なものだ。
 長い間、ローズマリーと婚約者同士であったのにも関わらず、彼女を冷遇していたことに対する恨み。
 日頃の無視は当然ながら、別の令嬢と遊び歩いていたマーシュを昔から許せないと思っていた。
 ローズマリーは彼のために花嫁修行にも抜かりなく励んでいたというのに。
 好きな人の婚約者がクズであるとわかった時は、さすがに穏やかな気持ちでいることができなかった。

(完全に私恨だな、これは……)

 マーシュと剣を交えた際は、さすがに私情を挟みすぎた。
 この先はなるべく私恨に惑わされないようにしようと、ディルは反省しながら調査に向かう足取りを早めた。