(まさか本当に、セージ兄様の言った通りになるなんて)

 ディルは王宮劇場へ続く道を歩きながら、兄のセージから言われたことを思い返す。
 ローズマリーの存在が周りに知られ始めている。
 それによって彼女の価値に気が付いた者たちが、その力を悪用しようと企むかもしれない。
 あの助言があったから、ローズマリーの窮地に駆けつけることができたので、ディルは心中で兄に感謝を送る。

(それにしても、元婚約者のマーシュ・ウィザーが真っ先にローズマリーを狙ってくるとは思わなかったな。しかもヨリを戻そうとしてきたなんて)

 卒業パーティーの時点では、夫となる自分よりもいい成績をとったローズマリーのことを妬んでいた。
 ということは、その後に彼女の活躍を聞いて、改めてローズマリーの魔術師としての価値に気付いて、妻として囲おうと思ったわけか。
 そうディルは考えたが、ふとある噂話を思い出してかぶりを振る。

 風の噂で、ウィザー侯爵領の開拓の一部が滞っていると聞いた。
 名家の令息は家督を引き継ぐ関係で、開拓事業の一端を任されることが多く、おそらくマーシュも一部の領地開拓を託されたはず。
 滞っている開拓はマーシュが引き継いだものだろうか?
 であれば今回、強引にローズマリーを懐に引き入れようとした辻褄も合う。
 マーシュは任された開拓事業で大きく躓いて、その失敗を拭うためにローズマリーの力を借りようとしたんだ。
 ……いや、借りるなんて生ぬるい表現は間違っているか。

(マーシュは、ローズマリーの力を自分のものにするべく、無理矢理に服従させようとしたんだ……!)