「たとえ殿下がお認めになっていても、他の者たちが認めるはずがない……! あまりにも格式が違いすぎると、確実に世間から非難される」

「まあ、格式的な問題もそうだし、魔法学校を首席で卒業した女性ってことで、彼女の印象が悪くなっているのは確かだ。否定的な声も各所で上がるだろうね。でも……」

 ディルは一切の迷いを見せず、淀みない様子で言い切ってみせた。

「そこはまったく心配していない。いずれローズマリーは魔術師として輝かしい功績を残し、格式ではなく実力で世間に認められるはず。そうすれば王子の婚約者としても相応しい人物だと、みんな思ってくれるはずだ」

 ……そこまで私の実力を買ってくれていたんだ。
 あれだけ憎まれ口を叩き合って、競い合ってきた敵なのに。
 いや、だからこそなのかも。
 六年間、ひたすらに競い合って、魔法を磨き続けてきたからこそお互いを認めている。
 私はディルがすごい魔術師だと思っているし、ディルも私のことを高く買ってくれているんだ。

 でも、期待に沿える活躍ができるかどうかもわからないし、何よりディルの婚約者になるなんて、どんな顔をしたらいいのやら……
 複雑な気持ちで立ち尽くしていると、ディルはそんな私の手をとって、会場の出口に歩いて行った。
 そしてマーシュ様の横を通り過ぎさまに、ふと足を止めて低い声で彼に言葉を掛ける。

「それじゃあね、マーシュ・ウィザー氏。君が彼女を手放してくれて、本当によかったって思っているよ」

「……っ!」

「彼女の活躍を陰で聞きながら、とんでもない逸材を手放してしまったと深く後悔するといい」

 そう伝えるや、ディルは観衆たちがあけた道を堂々と突き進んで行く。
 その最中、後ろを振り返ってみると、マーシュ様は怒りと悔しさを滲ませた顔で私たちを見据えていた。