おかげで空気がより明るくなって、私は軽やかな足取りで部屋を後にしようとする。
 しかし出る直前、私はふとあることを思い出した。

「そういえばディル、さっきマーシュに言ってたことだけど……」

「んっ?」

「前々から“個人的な恨み”があるって、あれってなんのことだったの?」

 剣で斬り結ぶ直前、『君には前々から個人的な恨みもある。加減は期待しないでくれ』と言っていた。
 思い返してみても、ディルとマーシュに接点はなかったと記憶している。
 魔法学校で接しているところなんて見たことないし、二人に因縁のようなものがあるという話も聞いたことがない。
 いったいマーシュにどんな恨みがあるんだろう?
 そう疑問に思って尋ねてみたけれど……

「さあ、なんのことだろうね」

 ディルは肩をすくめて微笑むだけで、教えてはくれなかった。

――――

 祝賀会で発生した事件の後処理は、衛兵たちに任せることにした。
 すでに父のクローブ国王にも話は渡っているらしく、会場で顔を合わせると、ローズマリーを王宮の部屋まで連れて行ってあげるように言われる。
 ローズマリーはすでに気持ちが落ち着いているみたいだったが、強がりであることも否定できず、ディルは彼女を部屋まで送っていくことにした。
 そして無事に送り届けると、ディルは来た道を引き返して再び王宮劇場へと戻っていく。
 父には自分も休むように言われたが、逃亡したマーシュの痕跡が何か残っていないか、自分で探ろうと思ったからだ。