ひとしきり泣いた後。
 気持ちを落ち着かせた私は、ようやく体の震えと涙を止まることができた。
 そしてずっと静かに寄り添ってくれていたディルにお礼を言う。

「ごめんね、ディル。もう大丈夫だよ。ありがとね」

「これくらいどうってことないよ」

「ううん、ずっと傍にいてくれたことだけじゃなくて、危ないところを助けてくれて」

 まだそのことについてお礼を言えていなかった。

「ディルが来てくれていなかったら、本当にどうなってたかわからない。だから本当にありがとう」

「……それも礼には及ばないさ」

 ディルはなんでもないように肩をすくめる。
 命のかかった剣戟をして、窮地を助けてくれたというのに、どこまでも冷静な王子様だ。

「それよりも、本当にもう大丈夫かい? 気持ちの整理がきちんとつくまで、休んでおいた方がいいと思うよ。僕も一緒にいるから」

「本当にもうよくなったから大丈夫だよ」

 まあ、もう少しこうしていたいような気もするけど……。
 でもいつまでもじっとしてはいられない。
 マーシュが襲撃してきた関係で、私は詳しい経緯を話さないといけないし、ディルだってまだやることがあるだろうから。
 名残惜しい気持ちで椅子から立ち上がると、私は先ほどの戦いを思い出してディルに言った。

「それにしても、ディルはすごいね」

「えっ、何が?」

「魔法が使えなくても、あれだけ強いなんてさ。私なんて何もできなかったのに」