せっかく芽生え始めていた自信が、音を立てて崩れていく。
 私はすごくなんかなくて、どうしようもなく弱い存在なんだ。
 元婚約者に襲われかけて、怖くて声も上げられなくて、今も体を震わせているような、小さくて情けない存在……

「えっ?」

 その時――
 ディルが片腕を伸ばして、泣いている私の頭をそっと抱き寄せてくれた。
 彼の胸の温かさと、心臓の鼓動を強く感じる。
 思いがけないディルの行動に、驚いて固まっていると、彼は慰めのような言葉をかけてくれた。

「ローズマリーは、すごい魔術師だよ」

「すごい、魔術師……?」

「誰よりも魔法が大好きで、その気持ちを原動力に魔法の修練を重ねて、名門の魔法学校を首席で卒業した、本当にすごい魔術師だ」

 次いでディルは、私のことをより強く抱きしめて、優しく囁いてくれる。

「でも、君は魔術師である以前に、一人の女の子だ」

「……」

「誰よりも魔法が上手くなっても、名門の魔法学校を首席で卒業しても、一人の女の子であることに変わりはない。怖い思いをしたら、不安な気持ちになってもいいんだ。涙を流してもいいんだ。変に強がる必要はどこにもない」

 そして彼は抱擁を解いて、安心させてくれるように微笑みを見せてくれた。

「少なくとも今、ここには君の力を一番理解している、ライバルの僕しかいないんだから」

 その瞬間、私は気持ちが楽になって、思わず涙が溢れてきた。
 本当に怖かった。
 何をされるかわからなかった。
 魔法が使えなくてすごく心細かった。
 王子の婚約者として毅然としていようと思ったけど、やっぱり涙を止めることはできなかった。

 自分に自信を失くしかけていたけれど、ディルからの励ましで少しずつ自尊心が戻ってくる。
 魔法学校でずっとライバルだったディルの言葉だからこそ、私の心にはより強く響いた。
 そして一つの新しい感情が芽生えるのを、私は朧げに感じる。

 それからしばらくの間、私は涙を流し続けて、ディルは傍に寄り添ってくれた。