「結果的にそれは奴にとって好転的に働いて、逃げ果せることができたみたいだけどね。まあさすがに無傷じゃ済まなかっただろうし、衛兵の捜索で見つかるのも時間の問題じゃないかな」

 その言葉を合図にするかのように、爆音を聞きつけた衛兵たちが駆けつけてきた。
 ディルは冷静に状況の説明をして、衛兵たちに的確な指示を出していく。
 そしてその場を彼らに任せると、呆然とする私の手を引いて別の部屋まで案内してくれた。
 ゆっくりと椅子に座らせてくれると、私は遅れて緊張が解けて、ガクッと項垂れてしまう。
 それを見たディルが心配するように声をかけてくれた。

「大丈夫かい、ローズマリー? すまない。もっと王子の婚約者として、君に気をかけるべきだった……」

「う、ううん、ディルのせいじゃないから、気にしないでいいよ。それにちょっと気が抜けちゃっただけだし」

 いまだに手が震えている。
 ディルに返した声もひどく掠れていて、自分の気持ちが落ち着いていないことがよくわかった。
 そして知らず知らずのうちに、涙まで滲んできてしまう。

「な、なんでだろう……なんで私泣いて……」

 抑えようとしても止まらない。
 泣いているという事実に、ますます涙を煽られる。
 何よりディルに見られていることがすごく恥ずかしくて、涙が溢れ続けてしまった。
 釣られるようにして胸の内の感情を吐露してしまう。

「私、自分がすごい魔術師だと思ってた。みんなに力を認めてもらえて、頼られるようにもなってきて、少しずつだけど自信もついてきた」

 私は自分に自信がなかった。
 名門の魔法学校を首席で卒業しても、女性だからと力を認めてもらえずにいた。
 それでもディルの計らいで開拓作戦を手伝わせてもらって、開拓兵の人たちから称賛をもらえるようになった。
 婚約発表の場でも王子の婚約者として認めてもらえて、もしかしたら自分はすごい存在なんじゃないかって思えるようにもなれた。
 けど……

「なのにさ、こんなことで腰抜かして、体も震えちゃってさ、なんかすごく情けないなって……」