「僕の勝ちだ、マーシュ・ウィザー。大人しく投降するといい」

「くっ、うぅ……!」

 喉に刃を押しつけられて、マーシュは額に脂汗を滲ませる。
 剣の素人の私から見ても、ディルが圧倒的に上回っていた。
 しかし驚きはさほどない。
 ディルは魔物との戦いでも剣術を用いるほど、多くの鍛錬を重ねている努力家だ。
 そんな彼が剣術勝負でマーシュに負けるイメージはまったく湧いてこなかった。

 完全に勝負の決着がついて、私は緊張の糸を僅かに緩める。
 次いで、このままディルがマーシュを押さえている間に、衛兵を呼びに行こうと思った。
 だが、ソファから立ち上がろうとした瞬間――

「……は、ははっ、試合には負けたが、勝負まで負けるつもりはないぞ」

「なに?」

 マーシュの頬に怪しい笑みが浮かぶのが見える。
 刹那、何を思ったのか、ディルがハッとして私の方に走ってきた。
 握っていた剣を捨てるや、すかさずソファに寄りかかっている私を両腕で抱え上げる。
 驚く私をよそに、ディルは素早く部屋から飛び出すと、その直後に恐ろしいことが起きた。

 部屋が、大爆発を起こした。