「変な噂が立っても困るから、二度と私の前に現れないで!」

 力強く拒絶を示すと、マーシュはわかりやすく歯を食いしばった。
 そんな彼に未練の一つもない私は、足早に休憩室を後にしようとする。
 しかし……

「…………大人しく言うことを聞いていればいいものを」

 マーシュは扉の前から動こうとせず、逆に私を妨げるように佇んでいた。
 退きなさいと告げようとしたけれど、その寸前マーシュの前髪の隙間から鋭い眼光が覗いて息が詰まる。
 加えて彼は、穏やかならぬことを言い始めた。

「やはり貴様は、腕尽くで従わせるしかないようだな」

「――っ!」

 明らかな敵意を感じて、私は咄嗟に後退りをする。
 そしていつでも魔法を撃てるように右手も構えた。
 これがマーシュの本性。
 彼はやはり心を入れ替えたわけではなく、偽っていただけなんだ。
 自分の思い通りにならなくて、その化けの皮が一気に剥がれた。
 マーシュの目的は定かじゃないけど、思い通りにさせるわけにはいかない。
 薄暗い室内に一層の月明かりが差し込み、朧げだった奴の顔が照らし出される。
 そこに薄気味悪い笑みが浮かんでいるのが見えて、私は息を飲みながら警告を送った。

「……何かするつもりなら容赦しない。怪我したくなかったら、もうここから帰って」

 向こうは私の魔術師としての実力を知っている。
 だからこれで充分に警告になると思った。
 けれど……