言葉は丁寧。
 表情にも申し訳なさが滲んでいる。
 けれどどこか嘘くさい感じが拭えず、彼への嫌悪感を振り払うことができなかった。

「だから今一度、俺とやり直してほしいと思っているんだ。傾いている実家の経営も俺が立て直す。一方的に婚約破棄してしまったことへの謝礼も渡す。どうか、もう一度俺との関係を考えてほしい」

 マーシュ様は今までに見せたことがない真剣な表情で訴えてくる。
 本当にこれまで接してきたマーシュ・ウィザーとはまるで別人のようだった。
 もしかしたら彼の言葉に偽りはなく、本当に心を入れ替えたのかもしれない。
 けど……

「……ふざけないで」

 私の心は変わることなく、マーシュ・ウィザーを拒絶した。

「仮に本当に、卒業パーティーでのことをきちんと反省していて、関係をやり直したいと思っているとしても、あなたは決定的に大きな間違いに気づいていない」

「……何か、気に障ることでも言っただろうか?」

 根本的なことがわかっていないようなので、私はため息まじりにはっきりと告げた。

「私は第二王子ディル・マリナードの妻になるの! すでに婚約発表を済ませた女性に言い寄るなんて、非常識もいいところです!」

 マーシュの翠玉色の瞳が大きく見開かれる。
 大層驚いているようだけど、私は当たり前のことを言っただけだ。
 今回の祝賀会に参加していたのなら、私とディルが婚約発表をした場面も見ているはず。
 それで寄りを戻そうと考えるなんて非常識どころか正気の沙汰とは思えない。
 自分のところに戻ってくると確信でもしていたのだろうか。私がマーシュに好意がある前提で話をしないでほしい。