……やり直す?
 それが以前の婚約者同士の関係を元に戻すという意の言葉だとすぐにわかる。
 どういうつもりなのかまるでわからずに言葉を失っていると、マーシュ様は翠玉色の目を申し訳なさそうに細めて続けた。

「ずっと君のことを考えていた。君と離れることになってしまってからずっと。どうやら自分で思っていた以上に、ローズマリーは俺の中で大きな存在になっていたみたいなんだ」

 ……私は、悪い夢でも見ているんだろうか。
 よもやマーシュ様がこんなことを言ってくるなんて考えもしなかった。
 学生時代、いつもこちらから挨拶をしても無視ばかりをしてきて、私に対して微塵も興味を示していなかった。
 婚約者どころか同じ人間として認知していたかもわからないほどで、彼からは無の感情しか向けられたことがない。
 それなのにどうして今さらになってこんなことを言ってきているのだろうか。

 私の聞き間違い?
 それともマーシュ様が、魔法か何かで何者かに操られている?
 それらの疑問以上に、私は怒りの感情を強く抱いてしまった。

「……ご自分で何を仰っているか、おわかりですか?」

 私はおよそ四ヶ月前の、エルブ魔法学校の卒業パーティーでの出来事を思い返しながら語気を強める。

「自分から婚約を破棄しておいて、今さら勝手なことを言わないでください」

 突然の婚約破棄を受けて、私は大きなショックを受けた。
 それだけじゃなく、大勢の前で恥をかかされて、心をひどく傷付けられた。
 それなのに今さら、そんな相手と一緒になれるはずがない。
 そもそも顔すら見たくないと思っていたほどなのに。
 嫌悪感を示すように、あからさまに顔をしかめてみせるが、マーシュ様は折れずに謝罪をしてくる。

「あの時は本当にすまなかった。情けないことに婚約者の君の才能に嫉妬し、一方的に君を傷付けることをしてしまった。今では間違ったことをしてしまったと、心から反省と後悔をしている」