「ローズマリーは魔術師として、王族の血を引くディル・マリナードを凌ぐ存在です。すでに作戦報告でもお伝えしてありますが、ローズマリーは私の婚約者として此度の開拓作戦に参加し、最大の功労者として作戦を成功へと導いてくれました」

 不意にディルが、隣に立っている私に目を向けてくる。
 その眼差しがとても優しげなものに見えて、驚いて固まっていると、ディルは観客たちに視線を戻して締めの言葉を放った。

「今後も彼女には、私の伴侶として共に開拓作戦を先導してもらい、王国の発展に貢献していければと考えております。ですので私たちの婚約について、ご理解のほどをよろしくお願いいたします」

 ディルの声が響くと、会場にしばしの静寂が訪れる。
 その行方を固唾を飲んで見守っていると、やがてまばらに拍手が起こり、すぐにその音が会場中を満たした。
 批判的な言葉を送ってくる人や、嫌悪感に満ちた目を向けてくる人は、誰一人としていない。
 危惧していたようなことが起こらず、思わず胸を撫で下ろしていると、ディルが観客たちを見つめながら隣で囁いてきた。

「だから言っただろ、大丈夫だって」

「えっ?」

「ローズマリーの頑張りは、少しずつではあるけど、確実にみんなの心に届いている。挨拶回りをしている時も、開拓作戦の功労者であるローズマリーを賞賛してくれる人たちがたくさんいたんだ」