さすがに聞き間違いだろうと思って周りを見る。
 するとマーシュ様や周りの卒業生たちは、目を見開きながら固まっていた。
 えっ、聞き間違いじゃない?
 本当に今、『代わりに僕がもらう』って言った?

「ディ、ディル? それどういう意味で言ってるの?」

「言葉通りの意味だよ。彼がいらないと言うのなら、ローズマリーは僕がもらう。僕と“結婚”しよう、ローズマリー」

「…………」

 勘違いでも聞き間違いではなかった。
 本気でディルは、私と結婚するつもりで『代わりにもらう』と発言したようだ。

「なんでいきなりそんな話に……」

「僕と結婚すれば、王家との繋がりができて実家を立て直すことができる。悪い話じゃないだろ」

 いや、それはそうなんだけどさ。
 私たちって、魔法学校でずっと競い合ってきて、憎まれ口だって散々叩き合ってきたライバル関係なんだよ?
 何よりこの結婚には、ディル側のメリットがまったくないように思える。
 と思ったら、その疑問を感じ取ったかのようにディルが言った。

「その代わりローズマリーには、僕が近々任されることになっている領地の開拓に力を貸してもらう」

「えっ、領地の開拓?」

「第二王子の使命として、父のクローブ国王から未開拓地の開拓を任されたんだ。その開拓に少し手間取りそうだったから、優秀な魔術師を探していたところなんだよ」