不意に周りがどよめくのを感じる。
 次いでディルがこちらに目配せをしてきて、私の心臓は自ずと跳ね上がった。
 その動揺を表に出さないようにして、私は堂々と壇上を上がっていく。
 ディルの隣に並ぶと、観客たちの怪訝な視線がこちらに集中し、緊張感がより増していった。
 それでも顔を背けずに会場を見つめていると、ディルが語気を強めて声を上げる。

「すでにご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、改めてご報告を。私、ソイル王国第二王子ディル・マリナードは、ここにいるローズマリー・ガーニッシュと婚約を結ぶことを宣言します!」

 ディルの凛とした声が、劇場の中に響き渡る。
 瞬間、参加者たちは戸惑いと驚愕の表情をして、一斉にどよめき始めた。
 ガーニッシュという家名に聞き覚えがない人。伯爵家の地位であることを知っている人。名前は知っていたけど顔を見たことがない人。
 その誰もが私のことを驚愕の眼差しで見つめてくる。
 観客たちのその様子を見たディルは、冷静に説得するように続けた。

「彼女は伯爵令嬢という立場で、王家の血筋の者との婚約は通常であれば成り立ちません。しかし彼女は一介の伯爵令嬢ではなく、王子の伴侶になるに相応しい人物であると私は思っております」

 その根拠を、ディルはどこか感慨深そうに話し始める。

「彼女とは魔法学校で知り合い、常に首席の座をかけて研鑽し合ってきました。そして六年もの学校生活がありながら、私は一度としてローズマリーに勝つことができませんでした」

 観客たちが息を飲んで、驚いている様子が伝わってくる。
 ディルが首席での卒業を叶えられなかったことは、割と知れ渡っているはずだけど、それを阻んだ相手がまさか私のようなちんちくりんの女性魔術師だとは思っていなかったのかもしれない。