祝賀会の会場で豪華な食事に夢中になっていると……
 気が付けばかなりの人が会場に集まっていて、賑やかさもさらに増していた。
 話に聞いたことのある著名人たちも大勢見られて、祝賀会の規模の大きさをひしひしと感じる。
 やがて挨拶回りを終えたディルが私のところに来ると、そろそろ開会の挨拶が始まると教えてくれた。
 そして一緒に壇の近くに向かうことになる。

「まずは父様から開会の挨拶と開拓前進の祝いの言葉を頂戴する。その後に開拓先導者として僕から一言挨拶する時間をもらえたから、その時に正式な婚約発表の流れに持っていこうと考えている」

「じゃあ私はその時に壇上に上がればいいかな?」

「うん、そうしてくれ」

 軽く事前の打ち合わせを済ませておく。
 すると壇上には国王様が上がっていき、いよいよ開会の挨拶が始まろうとしていた。
 婚約者発表の時が着実に近づいてきて、自ずと緊張感が増してくる。
 ここがパーティーの会場ということもあって、魔法学校の卒業パーティーでの出来事を想起してしまい、不安な気持ちを抑えきることができなかった。

『この女が王子の婚約者になるだと!? 男を立てることも知らないこの愚女に、王子の婚約者が務まるはずがない!』

 ディルは魔術師として、過去に類を見ない才能の持ち主として知られている。
 そして魔術師の才能は血筋によるものが大きいとされているので、より才覚を持った子孫を繁栄させるために、彼の婚約者は相応の格式のある令嬢が相応しいと考えられてもいる。
 だから無名伯爵家の出自の私が、ディルの婚約者として壇上に上がったら、卒業パーティーと同じように心無い言葉を浴びることになるんじゃないだろうか。
 いくらディルが開拓作戦の報告で、毎回私を最大の功労者としてあげてくれているとは言っても、格式を重視する現代の価値観をそう簡単に覆せるとは思えない。

『卒業パーティーの時と同じように君を侮辱する者が現れたら、また僕が反論をするから心配することはないよ』

 ……いいや。
 ディルにもこう言ってもらったんだし、弱気な心は一旦置いておくとしよう。
 自信が無さそうなところを見せれば、それこそ王子の婚約者として認めてもらえなくなってしまう。
 だから胸を張って壇上に立つんだ。