意味深な物言いに疑問符を浮かべると、セージはディルに顔を近づけて、周囲を窺いながら囁いた。

「周りの連中が彼女の価値に気付きつつある。それはいいことでもあるが、同時に悪い事態を招く要因にもなり得るってことだ」

 セージにそう言われたことで、ディルは遅れて気が付く。
 ローズマリーが優れた魔術師であることを周知させるために、ディルは彼女に活躍の場を多く与えようとしている。
 そして女性に魔術師が務まらないという先入観を変えることができれば、ローズマリーが気兼ねなく大好きな魔法に熱中できる世界が作れると考えていた。
 何より自分が認めている逸材が、いつまでも周りから否定され続けている現状が許せなかったから。
 その思惑の通り、今はローズマリーの存在や価値が周りに知られつつあるが、それは同時に不測の事態が迫っていることの証明でもある。

 ローズマリーの存在に気が付いた者たちが、その力を利用しようと考えるかもしれない。
 例えば今のセージの冗談のように、彼女を自陣に引き入れようとしたり。
 はたまた、無理矢理に言うことを聞かせようとしたり。
 そうやって彼女を悪用しようという輩が現れる可能性があるということだ。
 それを警告する意味で、セージは先ほどの冗談を口にしたのだとディルは察する。
 そのことに礼を返す意味で頭を下げると、セージは忠告の言葉を残して立ち去っていった。

「くれぐれも手を離さないようにしろよ。大切な婚約者なんだろ」

「……はい」

 聡明な兄からの助言を受けて、ディルは一層気を引き締めたのだった。