基本的に他人の魔素を視認したり、感じ取ったりできる人間は存在しない。
 特殊な魔道具を使ったり、その類の魔法を使わなければ確認ができないものだ。
 しかしセージは生まれながらに特殊な眼を持ち合わせており、見ただけで他人が内包している魔素の量や、発動された魔法の特性などを瞬時に見抜くことができる。
 その能力があれば、ローズマリーの実力は一目見ただけで筒抜けというわけだ。

「ディルを次席に留め続けた子がいると聞いた時は、驚愕で耳を疑ったものだが、あれだけの子ならディルが同じ年代にいながら首席の座を取り続けていたのも納得できるな」

 セージはそう言いながらディルの肩に手を置き、含みのある笑みを浮かべた。

「そんな逸材を婚約者として囲って独り占めか。羨ましい限りだよ」

「独占しているつもりはないんですけど」

「なら、王国軍に勧誘してもいいか。超高待遇で」

「……」

 ディルは赤目を細めて、見るからに不機嫌そうになる。
 その顔を見たセージは、含みのある笑みをまた一層深めると、肩をポンと叩いて笑い声をこぼした。

「冗談だよディル! そんな怖い顔するなって」

「……別に普段通りの顔をしていただけですが」

「まあ、今のは冗談としても、やっぱりその辺りのことは気をつけておいた方がいいと思うぞ」

「その辺りのこと? どういう意味ですか?」