至福の笑顔で豪華な食事を頬張っているローズマリーを見ながら、面白そうな子じゃないかと微笑んでいる。

「すでにご存知でしたか?」

「いいや、初めて見るよ」

「ではどうして……」

「話には聞いてたからな。ディルが学生時代に一度も勝てなかった子だって」

 それでは理由になっていないとディルは小首を傾げる。
 すでにローズマリーの顔を知っていたから、目を向けていたのではないのだろうか。
 と疑問に思っていたが、ディルはすぐにその理由を悟り、セージはそれに頷きを返すように、ローズマリーを見据えながら言った。

「見ればわかるよ。あれだけ莫大な量の魔素を内包している魔術師はほとんど見たことがない。恐ろしいまでの研鑽の数々を積み重ねてきた証だ」

 魔素の量は魔法の鍛錬によって増加する。
 人の体で言えば筋肉と同じだ。
 魔素の内包量が魔術師としての鍛錬の量、研鑽の数を示している。
 現代の至宝と名高いディルは、生まれながらにとてつもない量の魔素を宿していたが、彼だけは例外で基本的には魔素の量と鍛錬の量は比例しているものである。
 そしてローズマリーは、王国軍で序列一位の魔術師として君臨しているセージでさえも、驚嘆させるほどの莫大な魔素を宿していた。

「王国軍でもあれだけの魔素を持っている魔術師は、引退間近の古株の中でもごく一部くらいしかいない。あの歳でどうやってあそこまでの鍛錬を積んだんだか。とんでもない化け物だよ」

「それ、人の婚約者に向ける言葉ですか?」

「これ以上ない賞賛だよ。まあ気に障ったのなら謝っておく」

 そう言われたが、ディルも“常人離れしている”など好き放題言っていたので人のことは言えないと猛省する。
 というより化け物と言うなら、他人の魔素を視認できるセージの方も大概だとディルは密かに思った。