祝賀会は王宮にある王宮劇場で催される。
 舞踏会や祝宴事に頻繁に利用される劇場で、国内で見ても指折りの大きさの会場となっている。
 金箔が散りばめられた内壁に煌びやかなシャンデリア。広々とした会場を照らすのは千にも迫る数の輝く灯りたち。
 此度の名目は祝賀会ということで、あちらこちらにテーブルと豪華な食事が並んでおり、上流階級の者たちがグラスを片手に早くも談笑を繰り広げている。
 その会場に到着した祝賀会の主役の一人――ローズマリーは、豪華絢爛な料理の数々を見て目を輝かせていた。

「わぁぁ! 全部美味しそう!」

 貧乏伯爵家の生まれゆえに贅沢をできなかった彼女が、祝賀会の豪勢な食事に感動するのは当然の成り行きである。
 それを理解しているディルは、少し考えてからローズマリーの背中を押すような言葉をかけた。

「婚約発表まではまだ時間があるから、よかったら行ってきなよ。僕は挨拶回りがあるし」

「えっ、いいの?」

 こちらを振り返ったローズマリーに頷きを見せると、彼女は嬉しそうに笑ってテーブルの方へ向かっていった。
 本当なら一緒に挨拶回りをして、重鎮たちにローズマリーの顔を覚えてもらいたかった。
 しかしせっかくの祝賀会なので、縛りつけてしまうのではなく純粋に楽しんでもらおうとディルは考えた。

(顔を覚えてもらうのは、正式な婚約発表の場だけで充分だしね)

 そう思いながら一人で挨拶回りをしていると、不意に後ろから名前を呼ばれた。

「おーい、ディル!」

「セージ兄様」

 聞き馴染んだ声に、ディルは嬉しい気持ちになりながら振り返る。
 すると視線の先には、淡青色の短髪と宝石のような碧眼が特徴の、目鼻立ちが整った劇団俳優じみた男性がこちらに向かって歩いてきていた。