ディルは我儘王子という異名が付くくらい、幼い頃は横暴の限りを尽くしていた。
 エルブ魔法学校に入学してからもその態度は目立っていて、しかし気が付けば大人らしい落ち着きを持つようになっていた。
 てっきり年を重ねて自惚れていたことを反省したのかと思っていたけど、実はそうじゃなかったのかな……?
 その真意を問いただすより先に、クローブ様が言った。

「これからも息子が面倒をかけることがあるかもしれないが、何卒よろしく頼む」

「は、はい!」

 むしろ助けてもらってばかりなので、私の方が面倒をかけているかもしれないけど。
 続いて王妃のマツリカ様にも挨拶をさせていただいて、お二人とも想像以上に親しみやすい方で深く安堵した。



 それから早くも一ヶ月。
 祝賀会の当日が訪れて、仕立て屋に頼んでおいたドレスも無事に出来上がった。
 プリンセスラインのアクアブルーのドレス。
 ネックラインは大胆に四角くカットされていて、タックを寄せたスカートはふんわりとボリュームが出ている。
 爽やかさと派手さを程よい塩梅でまとめたドレスだ。
 相当急いでこしらえてもらったのにもかかわらず、細部まで丁寧に仕事がしてある。
 まあ、それを着るのがちんちくりんの私なのが、すごく申し訳ないのだけど。
 ともあれ当日の朝、それに袖を通して準備を整えると、ディルが貸し部屋まで訪ねてきた。

「ローズマリー、準備はできたかい?」

「うん、ばっちりだよ」

 そう答えながら部屋を出ると、そこにはいつものコートではなく黒の燕尾服に身を包んだディルが待っていた。