ディルのその一言に、マーシュ様は一層歯を食いしばる。
 次いでディルは周囲に視線を移して、呆れたように続けた。

「周りで喚いていた連中もそうだ。『女のくせに出しゃばりすぎ』とか『女に魔術師は務まらない』とか好き放題言って。ローズマリーが首席であることに納得がいっていないのなら、君たちも実力で覆せばいいじゃないか」

「「「…………」」」

「それができないから、徒党を組んで彼女を貶めようとしたんだろう。彼女に魔術師として敵わないと思ったから、女性であることを叩く理由にするしかなかったんだろう。本当にくだらない」

 ディルがため息交じりにそう言うと、マーシュ様が開き直ったように声を荒げた。

「あぁそうさ! こいつは女のくせに生意気なんだよ! 夫となるこの俺よりもいい成績をとりやがって……! 男を立てられない妻は不要なんだ!」

 偽りのないマーシュ様の本音。
 改めてそれを聞かされて、私はやはり取り返しのつかないことをしてしまったと後悔する。
 名門の魔法学校を首席で卒業した時点で、女性の私は貴族社会で死んだも同然だ。
 プライドのある男性貴族は、自分よりも魔法技術に優れている女性なんか嫁に取ろうとしない。
 私をもらってくれる人なんて、もう……

「ディル殿下が何と言おうと、この女はすでに首席卒業生の名簿に名を刻んだ! 男を立てられない女はこの先誰にも娶られることはない。ガーニッシュ伯爵家も完全に終わりだ!」

「そうか。じゃあ代わりに僕がもらおうかな」

「…………はっ?」

 素っ頓狂な声を上げたのは、私だった。