祝賀会までの一ヶ月間は、ディルの生家である王宮で過ごさせてもらうことになった。
 一応すでに身内には私との婚約を話しているらしく、王宮で過ごすことを許してもらっているらしい。
 実際に王宮を訪れると、快く中に入れてもらえて、ピートモス領の屋敷の自室以上に広々とした部屋も貸してもらえた。
 さらには豪華な食事まで用意してもらえて、それだけでも王都にやってきた甲斐があったと言える。
 それとディルのお父様であるクローブ国王にも、改めてご挨拶させていただく機会をもらえた。

「お初にお目に掛かります、クローブ国王様。ローズマリー・ガーニッシュと申します」

「あぁ、初めまして」

 クローブ国王は柔和な表情が特徴の、四十前後に見える優しげなおじさまだった。
 髪と目の色はディルと同じく銀髪赤目で、長身かつ筋肉質な体格をしており、熟練の騎士のような風貌だ。
 かつては王国軍を率いていて、戦時には自ら先陣を切り、戦場を駆け回っていた猛将だと聞く。
 魔法の腕もマリナード一族ながら卓越していて、ディルやそのお兄さんのセージ様が成人するまでは現代最強の魔術師としても噂されていた。
 遠目でしかお姿を拝見したことがなかったため、間近でお目に掛かれて感激していると、クローブ様は意外な言葉をかけてくる。

「君のことは話に聞いている。魔法学校ではディルと同年代で、一度も首席の座を譲らなかったそうだな」

「も、申し訳ございません」

「いや、責めているわけではない。むしろ感謝している」

「感謝?」

「魔法の才覚に溺れ、横暴な振る舞いをしていた息子が、いつの間にか人並みの落ち着きを持つようになっていた。それは君が、魔法学校で幾度となくディルを負かしてくれたおかげだと思っている」

 思いがけないことを言われて、私は目を丸くする。
 反射的にディルを一瞥すると、彼は居心地が悪そうな顔で頭を掻いていた。