いつか彼女にとって、魔法以上に好きな存在になってみたい。
 魔法に向けられている好きという感情を、一度だけでいいから、すべて自分の方に向けさせてみたい。
 それが叶ったら、いったいどれだけ幸せなことだろうか。
 考えるだけでもまた頬が緩んでしまいそうになる。
 なんとか堪えて冷静な顔を保とうとしていると、気が付けばローズマリーの手元には五冊の魔導書が積み上がっていた。

「えっと次は……」

「“次は”じゃないよ。三冊までって言ったじゃないか」

「うぅ、この宝の山の中から三冊だけを選ぶなんて、そんなのできっこないよぉ。明日になったら売れちゃってるかもしれないし」

「そんなマイナーな魔法の魔導書を買うのはローズマリーくらいしかいないよ。まったく君は……」

 相変わらずの様子のローズマリーを見て、自分の願いが叶うのは随分先のことになりそうだと、ディルは呆れ気味にそう思ったのだった。