最初は仕立て屋や装飾品店に行く約束をしていた。
 そこで試着などしてもらえれば、ローズマリーの可憐なところをたくさん見られるかもしれないと期待していたけれど……
 結果的に魔導書店に来て正解だったかもしれないと、ディルは密かに感じる。

(やはり君は、魔法に夢中になっている時が一番綺麗だ)

 ディルは我知らず、魔法学校時代のことを思い出す。
 ローズマリーは、魔法学校で友達がいなかった。
 男子生徒がほとんどで、かつ限られた女子生徒も上流階級の生まればかりだったので、貧乏伯爵家出身の彼女に友達がいなかったのは当然と言えば当然である。
 さらにローズマリーは、女子生徒でありながら首席を独占し続ける、男尊女卑の精神を忘れた異端者としても見られていた。
 そんな彼女と友人になるような人物はいるはずもなく、傍から見ていても孤独な学校生活を送っていたとディルは記憶している。

 しかし彼女は、そんな学校生活に悲観はしていなかった。
 むしろ誰よりも楽しそうにしていた。
 授業でたくさんの魔法を学び、放課後も自主的に図書館などで魔法の勉強をしていた。
 周りからの蔑むような視線にもまるで気付くことなく、いつも大好きな魔法だけを見つめ続けていた。
 こんなにも純粋な人は見たことがなく、好きなことに打ち込むローズマリーの屈託のない笑顔も可愛らしくて、ディルは心を奪われたのだ。

(何かに夢中になっている人は、それだけで不思議な魅力を宿している。その視線を少しでも自分に向けさせてやると、そう思わせてくれるから)