祝賀会のために王都に戻ってきたディルとローズマリーは、準備の前に魔導書店に寄ることにした。
 本の香りに満たされた書店に入ると、入口のところで二手に別れようかディルは提案しようとする。
 好き勝手に回れた方がローズマリーが気楽なんじゃないかと考えて。
 しかし入ってすぐのところでローズマリーに声をかけられてしまい、その思惑は無駄になってしまった。

「あっ、新書この辺りの棚にあるみたいだよ。ここから見て行こっか」

「そうだね」

 意図せず二人並んで新書棚の魔導書を物色することになる。
 それから改めて別れるのもどうかと思い、結局二人で一緒に書店内を回ることになった。
 度々ローズマリーが満面の笑みで振り返って声をかけてくる。

「見て見て! 乾いた目を潤してくれる魔法だってさ。あっ、こっちには頭の中で好きな音楽を鳴らすことができる魔法もある」

「よくまあこんな使い道のなさそうな魔法にまで食いつくね。いつ使うんだよこんな魔法」

「いつか役に立つかもしれないでしょ! 何より知っておいて損はないんだから」

 ローズマリーが飛びつくように目についた魔導書に手を伸ばしていくのを、ディルは少し下がったところから見守る。
 無邪気に魔導書店を楽しむローズマリーを見ながら、ディルは冷静な顔を貫いたまま思った。

(……僕の婚約者、可愛すぎないか)

 何か新しいものを見つける度にくるりと笑顔を向けてきて、嬉しそうにそれを教えてくれる。
 純粋で輝くような眩しい笑顔を見せられる度に、ディルは思わず頬が緩みそうになってしまった。
 小動物的な可愛らしさもあって、つい抱きしめたくなる衝動にも駆られてしまう。