「もしかしたら新書が入ってきてるかもしれないしさ、見落としてた魔導書だって眠ってる可能性もあるんだよ。それを誰かに先に取られでもしたらって思うと……」

「はぁ、君は本当に魔法にしか目が向いていないんだね。新しいドレスより魔法を取るのか」

 飾り気のない女でごめんなさい。
 でも私にとって魔法は、三度の飯より大切なことなんだよ。
 という強い意志を視線に込めて、両手も合わせながら必死に懇願していると、やがてディルが折れたようにため息を吐いた。

「わかったよ、なら一時間だけだ。僕も新しい魔導書があるか気になっているし」

「ありがとうディル!」

 許しが出たので、私は嬉々として魔導書店に駆け込もうとする。
 と、その一歩を踏み出しかけた瞬間、不意にディルが私の前に出てきて、思わず立ち止まってしまった。
 すると彼は、少し屈んで私と目線を合わせると、我儘な子供を言い聞かせるお父さんのように言った。

「本当に一時間だけだからね。それと荷物もあまり増やしたくないから、魔導書を買うとしても三冊までだ。ちゃんと守れるね?」

「……は、はい。守ります」

 そう念を押されて、私は高揚しすぎていた気持ちを少し落ち着かせたのだった。