恥ずかしながら、私の実家は貧乏で、上流階級の人間が多く集まる祝賀会に着ていけるようなドレスは持っていない。
 魔法学校の卒業パーティーに着て行ったものもかなり質素な品で、ただでさえ女子生徒が少ない中浮いていたものだ。
 そのことをディルが心配してくれて、彼がドレスを新調してくれることになった。
 それに対して何かお返しをすると言ったけれど……

『これを施しだと思っているのなら大きな勘違いだよ。君は王子の婚約者なんだから、相応の格好をしてもらわないと僕の顔が立たないことになる。これは僕のためでもあるんだ。だからお礼は不要だよ』

 ディルはそう言ってお礼を断ってきた。
 確かに王子の婚約者として、不恰好なまま祝賀会に参加するわけにはいかない。
 だからディルは自分のために、私にドレスをプレゼントしてくれると言った。
 けど、嬉しいものは嬉しいのだから、ちょっとくらいはお礼をさせてほしかった。
 まあ、いつかドレスのお礼という名目ではなく、何かしらの形で恩を返すとしよう。
 そう思いながらディルと一緒に町を歩いていると、ふとあるものを見かけた。

「あっ、魔導書店だ! ねぇ、ちょっとだけ寄ってもいい?」

 私の大好きな魔導書を専門にしている書店。
 久々に見た高揚感から、勢いで提案してみると、ディルは呆れたような顔でかぶりを振った。

「最初は仕立て屋に行くって約束しただろ。早いうちに頼んでおかないと仕立てが間に合わなくなるかもしれないし、装飾品も探さないといけないんだから」

「そうだけどさ、本当にちょっとだけ」

 ドレスの新調だけでなく、それに合わせる装飾品も買いに行かなければならない。
 というのは頭ではわかっているけど、目の前にある魔導書店の魅力にはどうしても抗えないのだ。