「うーん……」

「何か気にかかることでもあるのかな?」

「いやぁ、いざ第二王子の婚約者として紹介されるってなると、色々と不安がね。周りから心ない言葉とかもらったらどうしようって」

 私は貧乏伯爵家の娘。
 格式的には第二王子の婚約者なんて釣り合っていないのだ。
 下級貴族の娘が王族の血を汚すなんて、とか周りから言われたらどうしよう。
 そんな懸念にかられて背筋を凍えさせていると、不意にディルが微笑をたたえた。

「そこは大丈夫じゃないかな」

「えっ、どうして?」

「開拓作戦の報告では、いつも最大の功労者として『ローズマリー』の名前を挙げているからね。格式的に釣り合っていないとしても、もう充分王国の発展に貢献したし、王子の婚約者として認めてくれるはずだよ」

「最大の、功労者……?」

 自ずと冷や汗が流れてくる。
 そんな報告をしていたなんてまったく聞いていない。
 ふと押し寄せてきた多大なプレッシャーに顔を強張らせていると、その様子を見たディルが面白がるように言った。

「なぜそんなに固い顔になっているんだい? 何か問題でも?」

「最大の功労者になった覚えなんてないんだけど……。どうしてわざわざそんな大袈裟に……」

「別に嘘は吐いていないよ。開拓を先導する僕をはじめ、作戦に参加した兵士たちも口を揃えて証言してくれているんだ。作戦成功に最も貢献したのはローズマリー・ガーニッシュだってね」

「開拓兵のみんなが……」

 まさか彼らも口添えしてくれているとは思わなかった。
 私の魔法はちゃんと、みんなの役に立てている。
 まだ確かな自信を持つことは難しいけど、改めてそれを聞かされて少しだけ前向きになることができた。

「だから胸を張って祝賀会に参加するといい。それにもし、卒業パーティーの時と同じように君を侮辱する者が現れたら、また僕が反論をするから心配することはないよ」

「……あの時のディルは、なんて言うか迫力がすごかったからね」

 なんとも頼もしい限りである。
 というわけで私たちは、祝賀会に参加するために、一度王都に戻ることになった。