「ローズマリー、貴様との婚約を破棄する」

 王都の王立劇場を借りて行われている、王立エルブ英才魔法学校の卒業パーティー。
 その催しの最中、私は婚約者であるマーシュ・ウィザーから婚約破棄を告げられた。
 巨大なシャンデリアから注がれる光で、広々としたホールは明るく照らされている。
 その中で豪勢なドレスやフロックコートに身を包み、談笑をしていた周囲の卒業生たちは、話をやめて怪訝な様子でこちらを振り返った。
 殺到した視線に居心地の悪さを感じる余裕もなく、私は放心しながら問いかける。

「り、理由を聞いてもよろしいでしょうか?」

「貴様が俺の婚約者として相応しくないからだ」

 相応しくない……?
 確かに私は貧乏伯爵家の出自だ。
 自前のプリンセスラインのブルードレスは他のご令嬢たちのものと比べて質素。
 装飾のネックレスは安物で寂しい首元を誤魔化すためだけの品。
 容姿に魅力もなく、平均以下の低身長で幼さの抜けない童顔。肉付きだってよくない。
 唯一の自慢は両親譲りのつぶらな碧眼に艶やかな金の長髪だけ。

 対して婚約者のマーシュ様は、著名な資産家の一つであるウィザー侯爵家の生まれだ。
 卒業パーティー用に新調したのだろう、お金の掛かっていそうな赤と金のフロックコート。
 一級品の宝石があしらわれた数々の装飾品。
 容姿も端麗で、青髪と翠玉色の瞳は宝玉のような美しさがあり、上背も高く目鼻立ちも整っている。
 そんな彼と私では不釣り合いと言えば不釣り合いだろう。
 私たちはあくまで、幼い頃に両家の都合で政略的に婚約者同士になっただけだから。
 と思っていたら、理由はまったく別にあった。