「あ、ありがとうございます。
 時間指定のものがあるので、
 経理に行きます。」


『‥‥‥分かった。』


??


一瞬筒井さんの顔が強張った
気がしたけど、エレベーターが
到着すると私を先に乗せてくれた後に
普通の顔に戻っていた。


10階に到着して降りると、
何故か筒井さんも一緒に降りてきたので
驚いてしまう


経理に用事があったのかな‥‥


偶然だとしてもなんか嬉しいな。

私が歩くすぐ後ろを歩く足音にも
愛しさを感じていると、
目の前から歩いて来た八木さんに
足が止まってしまった。


あれ‥‥なんで?


急に足に重い鉛がついたように
両足が小刻みに震えてしまう


『筒井さん!!待ってましたぁ。
 お時間通りでしたわね。』


顔を上げることも出来ず、
郵便BOXを両手で掴む手に力が入る


『八木さんお待たせしてすみません。』


筒井さん、
八木さんに用事があったんだ‥‥


仕事だと分かっていても、
あんなことをして来た人と
会ってなんか欲しくないなんて
心の狭い事を考えてしまう。


本当にこういう所が
幼すぎて嫌になる‥‥



『ふふ、待ってませんわ。寧ろお迎えに
 伺うとこでしたぁ。お電話
 下さるなんて嬉しかったですぅ。』


『ではA会議室に行きましょう。』


八木さんと会議室に
入って行ってしまうと、
さっきまで固まっていた足が
嘘みたいに軽くなるものの、
2人が入って行った会議室が
気になり、郵便物を渡して帰る時も
何度も見てしまった


「戻りました。」


『ご苦労様。今日は郵便多かったから
 大変だったね。夕方までに
 仕分けしておこうか。』


「はい。」



忙しくて仕事があって良かった‥‥

そうじゃないと余計なことを
沢山考えてしまいそうだったから。


「お疲れ様でした。」


『お疲れ様。また来週もよろしくね』


更衣室で服を着替え終えた佐藤さんに
挨拶をして1人になると、
一気に気を張っていた体の力が
ストンと抜けてしまった


もう今日は早く帰ろう‥‥
華の金曜日だからみんな残業なしで
帰るだろうし。


制服から私服に着替えると、
重い足取りでエントランスへ向かう
扉を開けた。


『お疲れ様。今から少し場所を変えて
 面談して話したいことが
 あるんだが時間いいか?』


筒井さん‥‥


昼間に会えた時は話せなくても
あんなに嬉しかったのに、
今はその顔を見るのも辛かった


「お疲れ様です。
 来週ではダメでしょうか?
 少し体調が悪いので早く
 帰宅したいんです。」

『‥‥‥‥』


筒井さんの顔を見るのもツラくて
傷痕の部分を隠すようにして
下を向いてしまう


痛くなかった傷痕が、2人で入って行った会議室の光景を思い出す度に
ズキズキと疼いてしまうのだ


『家まで送るから中で待ってろ。』


ドクン