受付に影を落とされると、
目の前に現れた八木さんに
体が一気に強張るのが分かった


「‥お‥お疲れ様です。あの
 ‥‥‥何かご用でしたか?」


立ち上がりおじぎをしても、
表情は険しいままで真っ直ぐ
見るのも恐ろしくて視線を逸らす


帰宅する人達にもチラチラと
見られてるし、用事があるなら
早く要件だけ言って帰って欲しい‥‥


『ご用ですって?
 あなた身の程知らずだから
 教えてあげるわ?
 筒井さんに可愛がられてるつもり
 かもしれないけど、あの人は
 無理よ?お付き合いされてる方が
 いるんだから。』


えっ?


真っ赤な口紅を引いた唇がニヤリと
笑うと、小さな声で囁いた


『残念ね?
 そのうち会えるわよ?だから
 調子に乗らないことね。あと、
 次に告げ口したら許さないから。』


「‥‥‥‥痛ッ!!」


私の腕を掴まれると、
長くて鋭い爪がグッと食い込み
痛すぎて離れるとそのまま引っ掻かれ
腕にジンワリと血が滲んだ


あまりの怖さに何も言えずに、
血がじんわりと滲む腕を慌ててハンカチで押さえた。


いけない‥‥制服が汚れてしまう
血液こそついたら落ちにくいし、
大切な制服だから一旦着替えないと‥


パソコンを付けたまま離れるわけには
いかなくて、電源を落とすと
やり残したことがないかを確認した


『霞!お疲れ様‥‥って何?
 どうしたの!?血が出てるじゃん!』


「菖蒲‥大丈夫だから声抑えて。
 あまりバレたくないんだ‥‥
 悪いんだけど、そこの扉の奥に
 救護室があるから、手当だけ
 手伝って貰える?」


『うん、分かった。』


人の動きが少なくなったのを
見計らって菖蒲と走って移動をしてから
救護室に2人で行った。


「やっぱり時間外だから
 もういないよね‥‥。」
 

『ちょっと、どういうこと?
 これどう見ても誰かにやられた
 傷だよね?霞は爪短いし。誰?』


本当は言いたいけど、八木さんに
次に告げ口したら許さないって
言われたから首を横に振った。


『霞!!』

「ほんとに大丈夫。消毒して、
 止血だけ手伝って?服が
 汚れちゃうから、ね?お願い。」


思ったよりも深く食い込んでたのか
5箇所の爪痕からは血がまだ出ていて、
引っ掻き傷は血は出てないものの
みみず腫れのようになっている。


告げ口なんてしてないのに
なんでこんなことに‥‥‥


目立たせたくなかったけど、
範囲が広すぎて何枚も絆創膏を
貼る方がおかしかったので、
菖蒲が消毒をしてくれた後に、
ガーゼで押さえてから包帯を
巻いてくれた。


「ありがとう、ごめんね帰るところ
 だったのに。用事とかなかった?」


菖蒲はその後も帰らずに
私服に着替え終わるまで待っててくれた


明日も仕事なのに申し訳なかったな‥


心配してくれてるのに何も言えなくて
ごめんね。菖蒲が来てくれて
本当に良かった‥‥