駅の手前にある自社の前に
差し掛かると、入り口で
偶然古平さんと出会った。


「遅くまでお疲れ様です。
 今お仕事帰りですか?」


エントランスの方に駆け寄ると
疲れた顔をした古平さんが
大きく溜息を吐いた。


『そうなの‥月末は何かと忙しくて。
 それより!どうしたの?
 そんなに泣き腫らした目をして。』


えっ?


夜でも会社の前はエントランスが
ライトアップされているから
余計にひどい顔がハッキリ
見えてしまったのか、
古平さんに覗き込まれる。


「あ、その‥‥みなさんのメッセージに
 感動してしまって‥泣きました。
 ありがとうございます。総務で
 これからも頑張れれば嬉しいです」


嘘ではないから恥ずかしくて俯くと、
いきなり古平さんに思いっきり
抱きしめられてしまった


「こ、古平さん!?」


通り過ぎる人もジロジロ見る中でも
お構いなしで抱きつかれ慌てていると、
突然私から古平さんが勢いよく離れた


『なぁにしてんだ?こんなとことで。
 お、霞ちゃんじゃん、お疲れ。』


「蓮見さん、お疲れ様です。」


お辞儀をしたら蓮見さんの後ろに
筒井さんの姿も見つけてしまい
焦ってもう一度頭を下げた。


『離してくださいよ!せっかくできた
 良き後輩にこれからの愛の
 エールを送っていたのに。』


『はぁ?何が愛のエールだよ。
 さっさと帰るぞ。じゃあね霞ちゃん。
 滉一も来週忘れるなよ。』


『ああ、お疲れ。』


蓮見さんに首根っこを掴まれたまま
連れて行かれる古平さんが私に手を振ったので、私も小さくお辞儀をして
2人を見送った。



『お疲れ様、今帰りか?』


「えっ、あ‥‥はい。
 菖蒲とご飯食べてました。
 筒井さんたちも遅くまで
 お仕事ご苦労様です。あと‥‥あの
 ハンカチ洗ってお返ししますので、
 そのありがとうございました。」


会えると思わなかったので、休みに
入る前にお礼が言えて良かった‥‥


『もう家に帰るだけか?』


「あ、はい。駅に向かうところです。」


『‥‥じゃあ送ってく。』


「えっ!?
 いいですよ、電車ありますし、
 大丈夫ですから。」


17時に仕事が終わってご飯を食べていただけの私なんかはまだまだ余裕で
電車で帰れる。


この間みたいに荷物もないし、今日は
送ってもらう理由もない。


お辞儀をして頭を下げると、
歩いた瞬間に手首を掴まれて
入り口付近のエレベーターホールに
連れてこられてしまった



「つ、筒井さん、私帰れますから!」


『フッ‥‥泣かせたのは俺だし、第一
 そんな顔で帰らせられないだろ?』


えっ?


エレベーターが到着すると、
掴まれていた手首は離されて背中に
そっと手を添えられると勢いで
そのまま一緒に乗ってしまった。


地下一階のボタンを押すとすぐに着いてしまい、仕方なく後ろを着いていくと
すぐに見覚えのある車を見つけた。


『どうぞ、乗って。』


「‥‥失礼します。」