そんなことを聞かされるとは
思ってもみなくて、緊張からか
心臓の音がドクドクし始め、
唾をゴクリと飲み込んだ


どうしよう‥‥
聞くのがすごく怖い‥‥


『・ミスはまだあるものの、一つ一つ
 丁寧に仕事をこなしながら、
 どんどんスピードも早くなり
 毎日助かりました。
 ・明るくて返事もとても良くて、
 井崎さんが来てから仕事の
 効率がアップしたからみんな早く
 帰宅することが出来ました。
 ・自信がないのはまだ伝わりますが、
 それでも背筋を伸ばして笑顔で
 頑張り、エントランスを常に綺麗に
 してくれたことを誇りに思います。
 総務課にこのままいてくれたらと
 思います。』



ウソ‥‥


総務課からのメッセージに
俯いていた顔をあげると、読み終えた
筒井さんと目が合った


もっと酷く厳しく
叱られると思っていたのに‥‥。


毎日同じことを注意されていたし、
反省ばかりの日々を送っていたから
今聞かされた評価をまだ信じられない



『井崎さん。
 君にもう一件メッセージが
 届いてるんだが、伝えてもいいか?』


嬉しすぎて声にならなくて頷くと、
筒井さんが立ち上がりこちらに来て
ポケットから取り出したハンカチで
私の頬にそれを当てた。


えっ!?
いつの間にか泣いてた事にも気付かず
そんな自分にさえ驚いた。


それを私に握らせると、
視線を合わせるようにその場に
座り込み、フッと小さく笑った。


『Je suis content que tu sois à la réception. Grâce à vous, j'ai passé un bon moment avec mes amis. Je reviendrai, alors s'il te plaît, prends soin de moi.』
(君が受付にいてくれて良かった。おかげで僕は大切な友人と楽しい時間を過ごすことができたから。また来るからその時もよろしく。)


スマホを取り出した筒井さんが、
流した音声メッセージに、私の瞳から
大粒の涙が掌の上に落ちていく。


『社長から君に伝えて欲しいと
 送られてきたメッセージだよ。
 いいか?
 人は1人では生きていけない。
 必ず誰かがあっての人生で、
 会社というものは
 マトリョーシカみたいなものだ。』


マトリョーシカ?


もう一度私の手からハンカチを取ると、
涙を拭いてくれる筒井さんの方を見る


『井崎さんがマトリョーシカの1番
 小さいものだとすると、その周りには
 古平を始め、蓮見や受付の社員が
 何重にもなって君を守ってくれてる。
 それをするのが上司の勤めで、
 1番大きな外側が企業だったりする。
 井崎さんは1人じゃなかったから
 頑張れたんだろ?』


筒井さん‥‥


「私‥すみません‥‥
 もう少し総務課で‥グスッ‥頑張りたい
 です。そうしてもいいですか?」


止まらない涙に借りたままのハンカチで目元を押さえると、立ち上がった筒井さんが優しく頭を撫でてくれた


『フッ‥。答えが出て良かったな‥‥』


面談はあっという間に終わったのに、
泣き終わるまでずっと黙って待っててくれた筒井さんの温かさが嬉しかった