次は何曜日に
会えるかなんて分からない。


あと数ヶ月後にはもうこうして
お話しすることもない人に
ありったけの気持ちを込めて
お辞儀をしたのだ。


いつか私が
この珈琲店からいなくなったら
あんな子いたなって
少しでも思い出してくれるだろうか‥‥


そうだったら
どんなに嬉しいのだろう‥‥


『また来るよ。いつもありがとう。』

トクン‥


頭上から聞こえた優しい声に、
それだけで馬鹿な私は涙が出そうになる


堪えてからニコッと笑うと、
街灯に照らされる
街並みを歩いていく姿を
見えなくなるまでずっと見送った。


‥‥‥どうしてあんな素敵な人に
恋をしてしまったのだろう。


報われることのない恋。
想いをつたえることのない恋。

あんな大人の人からしたら、
お子様な私は範囲外だって
ことも分かってる。


溜め息を大きくはいたあと、
テーブルを片付けに窓際へ行き
もう主人のいないその場所に立った


ガチャ

『ただいま。すまなかったね。』

「いえ、大丈夫ですよ。あ‥‥でも、
 マスターの代わりにお会計に入って
 しまいました。すみません。」


『おや、筒井さんは帰られたんだね。』


えっ?

ガシャン!!

エプロンを綺麗に身につけるマスターの
言葉に片付けていたカップを誤って
落としてしまった。


「ツッ‥すみません!
 大事なカップなのに弁償します!!」


派手に割れてしまったカップと
細かく散りばめられた破片に
座り込んで口元に手を当てた


どうしよう‥‥

マスターが大切にしている
セットのカップなのに‥‥


『霞さん、落ち着いて。
 怪我するといけないから
 箒で片付けなさい。
 ただの安物だから。』


マスターがそう言ってくれたから、
裏から箒を持ってくると、
丁寧に破片を集めていく。


大好きな彼が飲んでくれた
カップだからこそ割ってしまったことが
ショックでたまらない。


「マスター本当にすみません。」


掃除し終えた私が
もう一度頭を下げると、
珈琲のいい香りがしてマスターが笑った



『そこへどうぞお座りなさい。
 もう上がる時間でしょう?
 特別に霞さんに淹れてあげます。』

えっ?



断れない空気を醸し出すマスターに
言われるがままカウンターに座ると
にこやかな表情で
一杯の珈琲を淹れてくれた。


『ぬるめで淹れましたから、
 苦味も少ないと思いますが、
 無理なら蜂蜜をひとさじ
 入れてごらんなさい。』