「筒井さんおはようございます。
 その‥昨日はすみませんでした。
 何かご用でしたか?」


笑顔で筒井さんを見上げると、
綺麗な瞳が真っ直ぐ私を見つめてくる


『‥‥‥‥大丈夫か?』


「大丈夫ですよ、元気ですし。」


『‥‥‥』


「掃除があるので失礼します。
 筒井さんも朝早くからお仕事
 ご苦労様です。』


丁寧にお辞儀をすると、
観葉植物のお世話をしに移動をした。


良かった‥‥‥
泣いてしまったこともバレてない。
なるべく普通にしないと。


イリスさんはもうすぐ帰られる。
それまではどうしたってここに
いるわけで、私にはもうなにも
出来ないしきっと泣くだけだから
昔みたいに今だけ
戻ればいいんだって思えた


筒井さんと過ごした時間は
夢のようだったけど、少し前までは
喫茶店の店員とお客様。
新入社員と会社の上司。
その時のような自分に戻れば
割り切って仕事に集中できるって
思えた。


『霞大丈夫?ちゃんと食べてる?』


「遅くに来た夏バテかも。
 大丈夫だよ、元気だから。」


菖蒲にはもしかしたら
わかってしまってるとか思うけど
何も言わずに、ランチや晩御飯に
付き合ってくれて感謝していた。


マスターにも謝りに行き、
あの時飲めなかったカフェオレも
頂けて元気が出た気がする


それから5日後
イリスさん達は10日間の視察を終える
ことができ、お見送りに社長と秘書の方と営業部長や筒井さんがエントランス
に集まっていた。


みんなにハグをしてお礼を伝えると、
最後に筒井さんの瞳を見つめて、
イリスさんがハグをした。

『C'était agréable de vous rencontrer. Je tiens toujours à toi. Je t'aime.』
(会えて嬉しかったわ。いつでもあなたを大切に想ってる。愛してるわ。)


ドクン


Je t'aime‥‥ってはっきりと聞こえ、
その後背伸びをしたイリスさんとまた
キスをしそうになると、
筒井さんがそっとイリスさんの
肩を押し戻した。


『Merci, Iris.
 Sois toujours toi
 S'il vous plaît, soyez une femme merveilleuse.』
(ありがとうイリス。いつまでも
 貴方らしく素敵な女性で
 いてください)



優しい笑顔でそう伝え
最後に握手を交わすと、何故か
イリスさんが私の方に向かって歩いて
来たので驚いて頭を丁寧に下げた


どうしよう‥‥
あの喫茶店でのことを何か
言われるのだろうか‥‥


予想していなかったことだけに、
緊張して頭を上げられない。


『Tu étais la fleur d'Akira.
 J'ai entendu dire que tu es très important pour moi.
C'était ma faute si j'étais méchant.
Je l'ai même gardé pour moi, me pardonneras-tu ? Parce qu'Akira est une personne très importante pour moi.』

えっ?


小声で私の耳元で囁いたイリス
さんはニコっと笑うと投げキッスをして
また向こうへ行ってしまった