いつものように車に乗せてくれ、
会社から車が出たところで
ようやくホッとして顔を上げた。



「あの‥‥これからは外で
 待ち合わせしてはダメですか?」


『別に構わないがどうして?』


どうしてと言われても‥‥‥。

筒井さんがモテるからとか、
さっき考えていたような事を
伝えたら馬鹿じゃない?って
言われそうだしな‥‥


「あの‥‥私は会えるだけで顔がその‥
 赤くなったりしてしまうので、
 社内だと見られますし、
 隠せないとご迷惑かなと‥‥」


いつも茹蛸とか真っ赤とか
言われてしまうし、筒井さんみたいに
何も表情を変えずになんてことは
私には出来ないから。


慣れとか経験なら、
私にはまだまだ時間がかかりそうだし。


『‥‥いいよ。
 じゃあこれから誘う時は
 メールか電話するよ。』


スッと伸びて来た手が私の頬に
触れて撫でると、赤くなった顔を見て
やっぱり茹蛸みたいだなって言われた


『いらっしゃいませ。』

『予約した筒井です。』

『筒井様ですね。
 お待ちしておりました。
 ご案内致します。』


なんか、すごく高級感のある
和風の料亭らしき佇まいに、
ノースリーブのカットソーに
パンツスタイルの私は
場違いな気がしてならない


筒井さんは夏だからジャケットは
ないもののスーツだからいいけど、
こういうのにもいちいち不安になる。


『こちらへどうぞ。
 狭いですが、個室になってますので
 お一人ずつ向かい合わせでどうぞ。』


通路に沿って、引き戸が沢山あり、
引き戸の右側を開けると2畳ほどの
スペースに2人で食事するには
ちょうどいい空間があった。


まるで昔乗った寝台列車のようで、
人の目も気にせずゆっくり食べられる
からいいなと思えてしまうサイズだ。


『ご注文はどうされますか?』


『コースでお願いします。』


コ、コース!?
私に払える額かな‥‥
最悪カードがあるし大丈夫だけど、
新人のお給料でこんなところは
菖蒲とも絶対来ない場所だから
緊張して来た。



『フッ‥そんな構えなくてもいい。
 ここはリーズナブルだけど
 何食べても美味しいから。』


「‥‥はい、すみません。」


こういう時も多分顔に出てしまってる
のか筒井さんにはいつも思ってることを
当てられてしまう


ポーカーフェイスにはどうしたら
なれるんだろう‥‥



「美味しい‥‥」