薄暗い空間にさっきよりも
目が慣れてきたのか、
滲んだ瞳の先に見えた筒井さんの
怒った顔に涙が溢れてしまう


「ごめんなさ‥‥私は
 筒井さんのことが‥大切で、
 こんなふうにそばにいられるのが
 今でも信じられないくらいで、
 夢なんじゃ‥ないかって‥‥‥。
 初めてなんです‥‥こんなに
 人を好きになったのも。
 だから手を繋いだり、
 抱きしめられたり‥‥キスも
 全部経験がないから
 勘違いしちゃうんです。
 今日のことも今もぜんぶ‥‥
 だから‥‥‥」


涙が止まらなくて両手で顔を覆う。
その瞳に見つめられるのもツラくて
逃げられないからこうするしか‥



『フッ‥‥。
 誰かのために自分が何かを
 してあげたいなんて思う日が
 来るとはな‥‥‥‥』


えっ?


私の手を取ると、
涙をテイッシュで丁寧に拭いてくれ、
滲んだ景色の向こうに、今度は
優しく笑う筒井さんが見えた。



『もう泣くな‥‥。
 あの日‥‥涙を流しながら
 言ってくれた気持ちがまだ
 変わらずあるなら、俺はこれからも
 お前のそばにいたいと思ってる。』


筒井さん‥‥


『勘違いなんてもうしなくてもいい。
 そのままのお前がいいから。』


筒井さん‥‥


一生分の勇気を振り絞って思いを
伝えた人が今目の前で私に
思いを伝えてくれている‥‥


叶わなくても想うだけなら楽しかった

そばに居られれば嬉しかった


だから私なんかに
こんな言葉を伝えてくれる筒井さんは
夢なのかなって思えてしまう。



『‥‥何もしないって言ったけど、
 治療だけしとくか。』



「ンッ!‥‥」


私の頬を包み涙を丁寧に親指で避けると
優しく唇にキスが落とされ、
名残惜しいような寂しさで
筒井さんを見上げてしまうと、
次の瞬間思いっきり鼻を摘まれた


「痛っ!」

『フッ‥‥さぁ寝るぞ。』

「‥‥もうしないんですか?」


えっ!?
なんておかしなことを
言ってしまったんだろうと
慌てて顔を背けると、もう一度両手を
抑えられ、至近距離で筒井さんが
見下ろして来た。



『何?
 お前もっとしたかったんだ?
 それなら答えないとな?』


「えっ!?
 あ‥‥何言ってるんですか!?
 ンンッ!!」


深く重ねられた唇に呼吸をするのも
下手くそな私は答えるだけで精一杯
だけど、角度を変えて何度も深く
舌が絡まると体の力も抜けてしまい
疲れていたのか暫くするとウトウトと
して目が閉じてしまった



『フッ‥‥続きはまた今度な。』


遠くで筒井さんの声が聞こえた気が
したけど、温かい温もりが心地よくて
目を開けることが出来なかった