「笑わせんなや。悲劇のヒロインぶっちょるつもり?」

「帰る。意味分かんない」

「ほら。逃げちょる」


その言葉に、無意識に体が止まった。


「何なの!? やめてよ! あたしは京を忘れるって決めたの!!」

「京の気持ちも考えちょー?」

「京が悪いんじゃん!!」


頬に流れたものを、隠すことはできなかった。


京が……待っててって言わないから……。


あたしを、信じてくれなかったから。


一生の誓いを、させてくれなかった。


「……っ京がいなくなんなきゃ、こんなことには、ならなかった……」


最低だ、あたし。

自分の弱さを、京のせいにしてる。


「……京も悪い。優しすぎるが。でも、京が全部悪いわけじゃないけん」


郁子がハンカチを出して、あたしの頬にあてた。


「京が不器用なこと、知っちょるじゃろ?」

「……知らない。忘れたってば」

「よく、考えぇ」


それだけ言うと郁子はカバンを持って、お金だけ置いて店を出て行った。


ミルクティーの香りが、なぜか心を切なくさせた。