「うるさい、小次郎」
小次郎って言うんだ……古風……。
「しっかし!! ものすごい美人さんじゃねぇ!!」
「え……」
あ……あたしに言ってる?
「君、綾ちゃんじゃろ?」
「はい……え? 何で?」
「郁子から聞いちょるけん! 自分の好きだった人を奪っ……」
────ドカッ!!
「黙れ小次郎」
「いっ!!て〜……あ。ご挨拶遅れました」
郁子に殴られたわき腹をさすりながら、小次郎さんが手を差し出す。
その手を握ると、軽く上下に揺すられた。
「郁子の彼氏の小次郎だけん」
「えっ!? かか、か、彼氏!?」
「ごゆっくり」
小次郎さんはにこりと微笑んで、カウンターへ戻って行った。
お……驚いた。郁子はまだ京が好きなんだとばかり思っていたから。
あたしが考えていることが分かっているかのように、郁子は口を開いた。
「あんなに綾のこと好きになっちょる人を、いつまでも好きでおるほどバカじゃないが」
「………」
郁子はストレートティーをひと口飲んで、あたしをまっすぐ見据える。
できることなら目を逸らしたかったけど、逃げているみたいで嫌だった。